リニアシステムが荷重を受けて直線往復運動をする場合には、転動体や軌道面に繰返し応力がたえず作用しますので、直線運動を長時間続けると、材料の疲れによるフレーキングと呼ばれるうろこ状の損傷が現れます。このフレーキングが最初に発生するまでの総走行距離をリニアシステムの寿命といいます。このほか焼き付き、割れ、かじり、錆などの原因によりリニアシステムが使用できなくなることがありますが、これらは主に取付精度、環境、潤滑方法などの問題であり寿命とは区別されます。
リニアシステムでは同時に製作された同じ呼び番号の製品を同じ条件で運転しても、材料の疲れ破損そのものがばらつきの多い性質であるために、リニアシステム自身の寿命にもばらつきが生じ、個別のリニアシステムでは正確な寿命の予測がつかなくなります。そこで寿命の予測には統計的に一定に定められた定格寿命を使用します。定格寿命は“一群の同じリニアシステムを同一条件で個々に走行させたとき、そのうちの90%のリニアシステムがフレーキングを起こすことなく到達できる走行距離”と定義されています。
リニアシステムの定格寿命は走行距離で表されますので、走行距離を一定にしたときの荷重をリニアシステムの負荷能力として、寿命の計算に使用します。その荷重は基本動定格荷重と呼ばれ、“50×103mの定格寿命 が得られる大きさと方向が一定の荷重”と定義されています。リニアシステムの形式によっては荷重の方向で負荷能力が異なるものがありますので、便宜上NBではリニアシステムに真上から荷重が加わった場合の定格荷重を寸法表に記載してあります。ボールスプラインではトルク負荷を受けて直線運動を行うことがありますので、同様に基本動定格トルクが定められています。
※2 一部製品で適用していないものがあります。
寿命計算式はリニアシステムに用いる転動体の種類で異なり、ボールを使用した場合は式(3)、ローラーを使用した場合は式(4)を使用します。またトルク負荷がリニアシステムに加わった場合には式(5)で求めます。
実際にリニアシステムを使用する場合は、案内軸の精度・取付け状態、使用環境、運動中の振動や衝撃など様々な不確定要素の影響があり、正確な作用荷重を算出することは容易ではありません。一般的にはこれらの要素を係数として扱い寿命計算を単純化する方法がとられ、硬さ係数(fH)・温度係数(fT)・接触係数(fC)・荷重係数(fW)が使用されます。これらの要素の影響から式(3)~(5)は、式(6)~(8)になります。
寿命は、単位時間あたりの走行距離が判明している場合には、時間で表わしたほうがより解り易くなります。ストロークと往復回数と寿命時間の関係は式(9)であらわされます。
リニアシステムでは案内軸がボールベアリングの内輪と同じ役割を果たしますので、案内軸の硬さが定格荷重の決定上で重要な要素となります。表面硬さが58HRCから低下すると定格荷重も低下していきます。NB製品では高度の焼き入れ技術により適正値を常に保っておりますが、やむを得ず適切な表面硬さに達しない案内軸を使用しなければならない場合には、定格荷重を図1−2の硬さ係数で補正してください。
リニアシステムでは焼き入れを施し硬さを上げて磨耗を少なくしていますので、リニアシステムの温度が100℃を越える場合には硬さの低下が起こり、定格荷重が減少していきます。リニアシステムの温度変化による硬さの変化を温度係数として図1−3に示します。
リニアシステムを2個以上密着して使用する時には、個々の製品のバラツキや取付面の加工精度の影響を考慮しなければなりません。一般的には表1-2の接触係数を使用して寿命を求めます。
リニアシステムに作用する荷重は、衝撃・振動や慣性力などにより、計算するよりも大きくなります。そこで、使用状況に応じて適切な荷重係数(表1-3)を用いて寿命計算を行います。
トップボールP.D-4については、個別に荷重係数を設けています。
リニアシステムの代表的な使用方法と、リニアシステムにかかる荷重の計算式を以下に示します。
W:作用荷重(N) P1~P4:リニアシステムにかかる荷重(N) X,Y:リニアシステムのスパン(mm)
x,y,ℓ:荷重作用点またはワーク重心までの距離(mm) g:重力加速度(9.8×103mm/sec2)
V:移動速度(mm/sec) t1:加速時間(sec) t3:減速時間(sec)
水平2軸 |
荷重計算式 |
水平2軸 / オーバーハング |
荷重計算式 |
水平2軸 / 軸移動 |
荷重計算式 |
水平横2軸 |
荷重計算式 |
立2軸 |
荷重計算式 |
水平2軸 |
荷重計算式 |
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リニアシステムの使用方法は1軸に複数のブロック外筒を使用し、2軸で使用するのが一般的ですが、取付けスペースなどの問題から1軸に外筒1個又は2個密着で使用する場合があります。その場合は、別表に示すモーメント等価係数を作用モーメント負荷に乗じて荷重計算を行なってください。リニアシステムにモーメントが作用した場合の等価荷重の計算式を次に示します。
リニアシステムにモーメントが作用した場合の荷重計算式を以下に示します。
W:作用荷重(N) P:リニアシステムにかかる荷重(N) :ブロック(外筒)中心までの距離(mm)
水平1軸1個 |
荷重計算式 |
水平横1軸1個 |
荷重計算式 |
立1軸1個 |
荷重計算式 |
水平2軸1個 |
荷重計算式 |
垂直横2軸1個 |
荷重計算式 |
立2軸1個 |
荷重計算式 |
リニアシステムに作用する荷重は、その使い方によっていろいろと変化していく場合が一般的です。例えば、往復運動の起動・停止定速運動の場合、また、ワークの有無、等が考えられます。このように、変動する荷重については、その条件における寿命と等しい寿命になるような平均荷重を求めて寿命計算することが必要です。
荷重P1を受けて走行距離 1
荷重P2を受けて走行距離 2・・・・・
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荷重Pnを受けて走行距離 nの場合
平均荷重Pmは次式によって求めます。
平均荷重Pmは近似的に次式で求めます。
平均荷重Pmは近似的に次式により求めます。